出逢いを語る

  • 2014.10.01 Wednesday
  • 06:30


朝晩は上着が欲しくなるほどの涼しい陽気なのに、日中は強烈な陽射しが地表に降り注いで、思わず太陽を睨みつけたくもなるが、道を歩いているとそこかしこに薫ってくる金木犀が確かな秋の訪れを教えてくれる。
これで町の緑が赤や黄色に色付いてくると、いよいよ本格的な、大好きな秋の到来である。

別れの季節といって連想するのはやっぱり春。
出逢いの季節というとやっぱり夏。
そんなイメージが一般的にはあるものの、それでは秋はどんなイメージか。
春とは異なる物哀しさを感じる別れの季節。いや、それはちょっと違う。
僕個人的には、夏の終わりが四季の終わりで、秋からが四季の始まり、という感覚は昔も今も変わらないので、秋は始まりの季節だと思っている。

まぁどの季節に別れが多くてどの季節に出逢いが多いか、なんていう確かな統計が特にあるわけではないし、えー!人肌恋しく物哀しい気持ちになるのはやっぱり冬でしょ!
なんて言う人もいるのだろうが、いいんだ、これはあくまでも感覚とイメージの話なのだから。

出逢いに関して言えば、自分は今まで本当に人との出逢いに恵まれてきたなぁ、と出逢えたことや出逢った人たちへの感謝の気持ちは年々増すばかりだけれど、いい出逢いというのは、誰も彼にも与えられた受動的な偶然を、それぞれ個々の力でどれだけ素敵なタイミングへと押し上げられるかということで、それでこそその偶然が素晴らしい出逢いへと昇華するものだと僕は思っている。
出逢う機会がどんなに多くても、互いの心を通じ合わせることが出来なければ、いや、通い合わせようと少しでも自分から働きかけなければ、それはただの偶然で終わって、やがて流れてしまうことのほうが多いはずだ。

そうして互いに心を通わせた結果として、海の見える緑の丘で告白をしました、とか、桜の見える橋でキスをしました、とか、そのような劇的な出来事へと繋がってゆくのだ。
だが、劇的な出逢い、となるとまた話は別だ。
なぜなら劇的な出逢いは計算してどうこう出来るモノではないからだ。
しかし僕が以前、音楽の仕事で頻繁にお世話になっていた人の、奥さまと出逢いの話が実に劇的で可笑しいのでちょっと紹介することにする。

ある日、いつものようにあるコンペの歌詞を書いて提出し、歌入れも済ませて、お疲れさまでした、と呑んでいる際、
ところで奥さまとはどんな風にして知り合ったんですか?
とホロ酔い気分で尋ねてみると、氏は何の躊躇も無く笑いながら、マクドナルドです、と答えた。

「マック?あのマックですか?なぜにマックで!」

驚きで目を丸くしつつも、マックで出逢った、という、ありそうでなさそうな、そんな興味をそそられるその氏の答えに僕は本格的な興味が湧いてきた。
氏と奥さまが以前マクドナルドで働いていた同僚同士だった、ということなら話は簡単なのだが、それではちっとも劇的なんかではない。
そんな話ならその辺にいくらでもゴロゴロ転がっている話だし、聞きたいのはそんな陳腐な話ではない。

「いや、マックに客として入って食事をしていたら、同じように客として来ていた嫁が、僕に思いっきりコーヒーをこぼして、わ!ごめんなさい!ごめんなさい!って」
「それでですか!」
「うん、それで嫁がクリーニング代に、と言って僕に千円札を押し付けてきたんですよ」
「ええーー!」
「それで僕はいいからいいから、って言ったんだけど、そういうわけにはいきません!って嫁も引かなくて、だからね、わかった、じゃあこの千円でお茶しに行こう、って」
「誘ったんですか!」
うん、と答えて氏は恥ずかしそうにニッコリと笑った。

何だかドラマでも観ているかのように劇的な話だ。
聞けばコーヒーをこぼされた時にパッと見上げて一目見た瞬間から、
あ、この子可愛いな、と氏は思ったらしく、
加えてそれが氏のタイプだった、と言うのだから、そんな漫画みたいな展開があるのか、と二度驚きである。
これなら先日の恵比寿でのライブMCでも話したように、女の人が運転するBMWに轢かれて痛がっている僕のもとに、
「大丈夫ですか!」
と慌てて駆け寄ってきたBMWの女の人がとんでもないお金持ちの未亡人で、加えてスレンダーなくせしてとんでもない巨乳で、大丈夫です、大丈夫です
と言って去ってゆこうとする僕に、
「そんなわけにはいきません!」
と言って僕の腕を掴んだ際にその巨乳が僕の腕に触れて、
その後、せめてお詫びに、と後日誘われて食事に行き、そこからいい関係が始まる、
といった長年の僕の妄想という夢も、決してあり得なくない話なんじゃないかという気がしてきたものだ。

「すごいなぁ、いい話だなぁ、で、それを機に付き合い始めたというわけですね!」
僕は勧められるがままの日本酒をクッと呑んで言う。
「うん、それでそのお茶をした時に次に逢う約束をして、次のイタ飯屋のデートの時に結婚しよう、って…」
「言ったんですか!!」
「うん」

何だかトルストイの小説でも読んでいるかのように劇的な愛の物語だ。
聞けばその二度目、いや、初めてと言っていいデートで氏が結婚を申し込んだ際、思いもしない氏の突然の求婚の言葉に驚いて、きっと言葉を失くして頬を赤らめたのかと思いきや、奥さまは手元にあったフォークをガバッと掴んで勢いよく氏の喉元に突きつけ、
「遊びだったら殺すわよ」
と真顔で言ったらしい。
まるでR指定のドロドロとした肉愛映画の成れの果てのシーンのようだが、成れの果てどころか、これは始まりのシーンである。

「えー!あのAさんがそんな狂気に満ちたことをしたんですかー!信じられない!」
僕はケラケラと笑ってまた日本酒を口にした。

ワケの分からないことで喧嘩ばかりして、最近は会えてはいないけれども、結婚して二十年以上経った今も仲の良いこの夫婦のことが、僕は大好きなんである。

だから諸君、劇的な出逢いを求めているならマックへ行け。
そして好みのタイプを見つけたら思いっきりコーヒーをこぼせ。
そうすればそれを機に素敵な出逢いと展開が…
待っているワケないんだよな。
きっと素敵どころか相手に火傷でも負わせてしまって訴訟問題に発展してしまったり、BMWに轢かれたい、という僕の夢も、いざ轢かれて、やった!と思っていたら、運転席から出てきたのはスレンダーな巨乳でも何でもなくて、ただのヤクザだった、というのがオチなのだ、きっと。

だから貧乏人は笑ってろ、という僕の座右の銘のように、
出逢いを求めるのなら、とりあえずいつも笑っていればいいのだ。
笑う門には福来たる、コレ、本当だからね。

ちなみにその氏と奥さまが初めてのデートをして結婚を申し込んだイタ飯とは、東京は麻布の奥まった路地にある隠れ家のような『チンチン』というお店で、その時、氏と奥さまの傍らには俳優の陣内孝則や奥田瑛二、女優の鈴木京香や松下由樹等が会食していたそうだ。

というのはウソで、傍らに陣内孝則や奥田瑛二や鈴木京香や松下由樹がこぞっているわけがない。
隠れ家『チンチン』?確かにチンチンはイタリア語で乾杯!という意味だが、麻布の隠れ家がそんな露骨な名前を屋号にするわけがない。
実際はチンチンでも何でもなく、女子高生やファミリーが傍らに多く集う『サイゼリア』だったそうだ。
マックで出逢ってサイゼリアで求婚。
この庶民感覚。しかしこの庶民感覚こそが、二人が今も仲良く暮らすことが出来る秘訣なのかもしれない。
結婚生活なんて、庶民感覚が無ければ楽しめないものだからね。

ということで今日から十月。
今年もあと二ヶ月と考えると、ホント一年の早さに驚いてしまうね。
バスを待ちながら金木犀をパシャリ。
それにしても金木犀って、薫りはいいけど写真栄えしない花よね、ワンダフル。

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