見栄を語る

  • 2013.03.05 Tuesday
  • 06:10


唐突ながら、僕は見栄っ張りのええかっこしいだ。僕のいったいどんなところが見栄っ張りなのか、それを言ってしまってはネタバレになってしまうので、さすがにここで明かすワケにはいかないが、とにかく自分という人間がいかに見栄っ張りなのかは、自分自身がよく知っている。
ただそれは見栄を張ろうと頑張っているのではなく、それが自然というか、自分ではそれを見栄とは思っていない。けれども世間一般的に言えば、それは見栄というカテゴリーに入るものなんだろう、と憶測して、自分のことを見栄っ張りと公言してみる。

そんなことを考えていたら、かつてよく通っていた飲み屋のマスターの言葉をふと思い出した。
ある夜のこと 、酒に酔った僕は、カウンターの中にいるマスターに向かって、
「マスター、オレね、すごい見栄っ張りな男なんですよ、悲しくなっちゃうくらい」
と言うと、マスターはカウンター越しにグラス酒を口にしながら、
「見栄っ張り、いいじゃないですか」
と笑みをたたえながらそう言うと、その言葉の意味をうまく理解出来ていない表情を浮かべていたのであろう僕に向かってこう続けた。

「僕は嘘つきは嫌いですけど、僕だって見栄っ張りですよ。でも見栄を張るのはそこへ向かおうとしている姿勢があるから張るんじゃないかな」
僕はマスターのそんな言葉を聞いて、いやいや、オレの場合はそんなたいしたもんじゃないんですよ、と正直に言ってはみたが、なるほど、この人はいいことを言うなと、思わず呼吸を止めて考える。
そこへ向かおうとする姿勢があるから見栄を張る、か、、、。
確かにそういうことなのかもしれない。
何の為に人は見栄を張るのか、と考えれば、その理由はいくらでもあると思うが、見栄を張ることで楽になることはあっても、見栄を張ることで苦しくなることは今まで無かったように思ったからだった。

「でも最近はそういうのヤメようと思うんですよ、苦しい時は苦しい、キツイ時はキツイってちゃんと言おうと思って、親しい人たちには」
「あぁいいんですよそれで!言わなきゃダメですよ」
マスターが笑う。

知らぬ間に雨が降った今夜、僕のスタジオの裏口をノックする音が聞こえて扉を開けてみると、近所に住むギタリストのちかちゃんこと近沢くんが、ダウンジャケットのフードを頭にすっぽりかぶった上に、まるで酔っ払ったサラリーマンがネクタイでそうするように、何故か頭にマフラーを巻いた滑稽な姿で立っていた。

「なにそれ?なにやってんの?」
「いやいや、てっきりボイスタの入り口が開いているかと思って、わざわざ近くに来て頭に巻き直したのにシャッター閉まってるし!ただの変な人じゃないですかオレ!」
「ちかちゃんはいつも何かしら笑いを取ろうとしてくれるなぁ」
ははは、と僕らは笑う。
(何の為にそんなことをしているのだ、とも思うが、そんな近沢くんが好きだ)

見栄のつもりがただの痩せ我慢になる前に、僕はもっと素直になろう。
今夜近沢くんが持ってきてくれたビールもご馳走になってしまおう。
女の子に奢ってもらうことも恥ではなく、それは光栄なことだと思うようにしよう。

それぞれの相手の心遣いに感謝しながら、こうしていつも通り笑って手を振って別れる。
それぞれの相手の気持ちに感謝しながら、素直になれる日を待っている。

待っているのは誰だ。
待たせているのは誰だ。

本当はそんなこと、ちょっぴりくらいは知っている。

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